新型コロナウイルスの流行は、私たちの生活を大きく変えましたね。
そして、今も見えにくい後遺症という形で影響を及ぼし続けているケースがあります。
その中でも嗅覚障害は、食事の味わいを奪い、日常の楽しみを失わせ、さらには気分の落ち込みや意欲の低下へとつながる厄介な症状。
耳鼻科で異常なしと診断されても、当の患者さんは「確かに匂いの世界が失われている」と感じています。こうした訴えは時に理解されず、本人の孤独感を深めていきます。
私の治療院にも、嗅覚障害やそれに伴う不快症状を抱えた方が訪れます。
慢性頭痛と不眠を抱えていた五十代男性は通院されて、風池や天柱、百会など頭部と首の循環を促すツボへの働きかけで、表情が和らぎ、朝の目覚めが軽くなったと語ってくれました。
不安感と気分の落ち込みに悩んでいた60代女性は、通院されて印堂や太陽、攅竹への刺激を続けるうちに、自然な笑顔を取り戻しました。「ここに来ると気分がほぐれる」と話してくれました。
ある40代女性、オンラインでのご相談でカウンセリングに応じました。コロナ罹患後半年以上も匂いが戻らず、食事の喜びを失っていました。首から顔にかけて経絡(ツボの流れ)の大腸経や胃経、胆経という流れを意識しながら経穴を刺激する指導を行ったところ、3ヶ月目にはうっすらと香りを感じられるようになり、やがてコーヒーや香水の香りを再び楽しめるまでに回復しました。
顔や頭、首は、嗅覚神経や三叉神経、迷走神経、副交感神経など、自律神経系と感覚神経が集まる要所。
東洋医学はこの領域に数千年の臨床経験を積み重ね、経絡や経穴の体系を築き上げてきました。
現代科学でまだ十分に説明できない症状でも、ツボ刺激が神経系や循環系に影響を及ぼすことは臨床現場では珍しくありません。
これらの改善例は、東洋医学が単なるリラクゼーションではなく、身体の精妙なネットワークに働きかける医療であることを物語っています。
嗅覚障害や慢性頭痛、気分の落ち込みといった不調は、検査で異常が見つからない場合が多く、患者さんは「我慢するしかない」と諦めがちです。
しかし、私たち東洋医学の臨床家は、症状の背後にある微細なバランスの乱れを整える手立てを持っているのです。