肩の痛みが耳から始まっている?
「最近ずっと、肩から腕がだるくて……夜もなんだか眠れないんです」
そう言って、あるご婦人が私の往診を受けてくださいました。
肩をそっと触ると、腕の外側まで張り詰めたような硬さがあり、押さえると少し痛む場所もありました。
「最近、ストレスはありませんか?」
「実は、近所でいろいろあって……。耳を塞ぎたくなるようなことばかり続いてて。あれから調子が悪くなった気がします」
私はその瞬間、身体の痛みの裏にある「心の疲れ」に気づきました。
私たちの耳は、ただ音を聞くだけではなく、感情の入り口でもあります。嫌な言葉、傷つくような声、張りつめた空気…
そうしたものが、知らないうちに耳から入って、心にも体にも影響を与えているのです。
特に耳のまわりから肩、腕へと続くエリアには、東洋医学で「気の巡り」に関わる流れが通っています。
これは専門的には耳と肩・腕をつなぐライン、「三焦経(さんしょうけい)」という経路が担っていると考えられています。
この経路は、単に物理的なつながりではなく、ストレスや緊張、言いたくても言えない思いなどが、体の中に溜まっていくルートとも言われています。今回の婦人の痛みも、まさにその流れに沿って現れていました。
施術では、耳のまわりから肩、腕にかけて、ゆっくりと緊張をほぐしていきました。すると、「あ、体がふわっと軽くなる……」という声がこぼれ、その数日後には「肩も楽になったし、近所のことも少し笑えるようになってきました」と穏やかな笑顔が戻ってきました。
身体の痛みには、心の重さが映ることがあります。
特に「音」によるストレスは、目に見えないぶん、深く入り込みやすいものです。
もしあなた自身や、あなたの周りの誰かが、「最近、肩や腕がずっと重い」「耳まわりがつらい」と感じているなら――。
それは身体が、「少し耳を休ませて」と伝えているのかもしれません。