自律神経と記憶力、思い出に寄り添うこと
「あれ、今なんて言ったっけ?」
「この人、どこで会ったんだっけ?」
ふとした会話の中で、記憶がすり抜ける瞬間が増えてくると、誰しも少し不安になります。
でも記憶力の低下は、単なる“年のせい”では片づけられません。
そこには、自律神経、ストレス、脳細胞の酸化、そして私たちの暮らし方が、静かに関係しています。
記憶は、まず「短期記憶」として海馬に蓄えられ、そこから「長期記憶」として保存されます。
しかし、慢性的なストレスが続くと、この流れがスムーズにいかなくなります。
ストレスが強いとき、体は交感神経優位になり、血管が収縮し、脳への血流も減少します。
そのうえ、ストレスに反応して体内では「活性酸素」が大量に発生します。
これは細胞をサビつかせる原因となり、とくに脳の海馬のような繊細な部位には大きなダメージを与えます。
ここで重要になるのが、“リラックス”。
副交感神経がしっかり働くことで、血流は穏やかに流れ、酸素と栄養が脳のすみずみまで行きわたる。
たとえば、深呼吸。
ゆったりした散歩、静かな音楽、そして自然の中に身を置く「森林浴」などは、副交感神経を優位に導き、脳を守る習慣として知られています。
私自身、顔や頭への鍼やマッサージを通じて、たくさんの人の変化を目の当たりにしてきました。
顔や頭には自律神経と関わる多くのツボが集まり、優しい刺激を与えることで、呼吸が深くなり、目が穏やかに変わっていきます。
終わった後に「頭がすっきりした」「忘れかけていた記憶がふと浮かんだ」という声をいただくことも少なくありません。
これは単なる気のせいではなく、科学的にも裏付けのある現象です。
頭皮や顔面を刺激することで、血流が改善し、脳の代謝が活性化していきます。
また、筋肉や神経の緊張がゆるむことで、自律神経のバランスが整い、記憶を司る回路が働きやすくなります。
さらに、日々の中で「ゆるめる習慣」を持つことも大切。
無理にがんばらず、五感を喜ばせてあげること。
朝の光を浴びる、温かいお茶をゆっくり飲む、ふとした香りに癒される、そうした瞬間が、脳にとってのご褒美となり、酸化から守る力にもなります。
記憶とは、単なるデータの蓄積ではありません。
それは、人生の感情や人とのつながりを映し出す、大切な「こころの記録」です。
もしも最近、記憶が曖昧になってきたと感じたら、それは脳や体からの優しいサインかもしれません。
「ちょっと休ませて」「リラックスさせて」と。
思い出に寄り添うには、まず自分自身に寄り添うこと。
自律神経を整え、酸化を防ぎ、自然や手のぬくもりに助けてもらいながら、脳と心をゆっくりと深呼吸させてあげたい。
そうすればきっと、記憶はもう一度、やわらかく、あなたのもとに戻ってきてくれるはずです。